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Lee-Byung-hun addicted

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しゃちほこ   最終話

しゃちほこ 最終話


「つまんない・・・」

「何が?」

「やっぱり見に行けばよかった。」

大阪公演を終え、ソウルに戻った彼は早朝パリへ長距離電話をかけていた。

不機嫌そうにつぶやく彼女の手元にはPCの画像。

どの彼も晴れやかで楽しそうな表情をしている。

「楽しそう過ぎる。」

「お前が思いっきり楽しんで来いって言ったんじゃないかよ。」

「それはそうだけど・・・あ~~もう!」

揺は頭をかきむしった。

「でも・・・楽しかった?そんなに。」

「うん。最高に楽しかった。いっぱい間違えて悔しかったけど。このままじゃ俺のプライドが許さないから昨日から秘密の特訓中だ。」

「本当に楽しそうね。」

「楽しいよ~。お前、つまんないの?そっち」

「面白いけど・・・面白いの質が違うのよ。でも、引き受けたからにはしっかりやるけど。最後まで。」

「うん。揺のそういうところ尊敬してるから頑張れよ。」


「うん。頑張るよ。あなたも次は息切らさないでね。」

「何で知ってるんだよ。」

「PCがあれば世界どこにいたってあなたのことはお見通しよ。」

揺は自慢げに言った。

「じゃ、パリで博多の俺を見てまたせいぜい悔しがれよ。」

彼はそういうと電話口でニヤニヤと笑った。

「ぶ~~~~~~~」

二人は声を合わせてゲラゲラと笑った。





「どうしてこんなに混んでるんですかっ!」

中部国際空港から日本ガイシホールに向かうタクシーの中、揺は運転手に食って掛かった。

「どうしてって・・ここはいつも渋滞するんですよ。お客さん。急ぎだったら電車が確実だったのに・・何があるの?今日」

「・・・大事な人が来てるから会いに行かないといけないんです。とにかく急いでください。」

車窓を眺めながら景色など目に入らない。

「もう・・3時過ぎちゃったじゃない・・・。」

揺は大きなため息をついた。



その数時間前。

「さすが小此木さんの推薦、揺さんのおかげでロケ地探しもイメージ通りに進みましたし現地スタッフの手配も万全。日程は二日も早く消化できるし。あとは本撮影を待つばかりですね。」

映画製作班のチーフスタッフの小松は満足げに言った。

「お役に立ててよかったです。いい作品になるようこれからも頑張りましょう。」

揺と映画スタッフの一行はシャルル・ド・ゴール空港のロビーで搭乗手続きまでの待ち時間を談笑しながら過ごしていた。

揺はにこやかにそう答えながらも航空機の離発着を知らせる案内板を気にしている。

「小松さん・・・」

「何でしょうか」

「お願いがあるんですけど、ここで解散にしていただいていいでしょうか。」

「え?揺さんやっぱりパリに残ります?こちらの生活長いって聞いてたからいろいろ用事もあるんじゃないかって・・」

「そうじゃないんですけど・・やっぱりちょっと寄り道をしようかと思って。」




その数時間後。

小松たちスタッフ一行とシャルル・ド・ゴール空港で別れた揺はセントレア(中部国際空港)直行便に乗っていた。

空港で離発着を示す案内板を見るまで。

名古屋に向かおうとは考えてもいなかった。

成田に向かう飛行機の搭乗手続きを待ちながらふと見上げた掲示板。

シャルル・ド・ゴール空港17:25分発のエールフランスに乗れば28日の13:25にはセントレアに到着する。

もしかしたら・・・一目でも彼の舞台を見られるかもしれない。

そう思ったらじっとしていられなかった。

キャンセルチケットをタイミングよく入手できたのも運命かもしれない。

そう思った。

どんな彼に会えるのだろう・・・空を飛ぶ彼女の胸の中は彼でいっぱいになった。



揺が日本ガイシホールに到着したのは3時半を回っていた。

タクシーを飛び降りただ必死に走る。

場外に人気はない。

まだ終わっていないということだろう。

スタッフ数人がグッズ売り場の撤収作業を行っている脇を走りぬける。

そう・・・チケット。

チケットなんて取ってなかった。

来れば何とかなる。

そう思って飛行機に乗ってしまったんだった。

近づいてくる大きなドームを見つめながら走っていた揺は地面の段差に躓いて空を飛んでいた。

「きゃぁ~」

「よっ!お姉ちゃん。大丈夫かい?元気いいねぇ~。何?びょん様に会いに飛んで来たの?」

道端に座っていた怪しげな男がニヤニヤ笑いながら蛙をつぶしたように歩道に突っ伏した揺に手を差し伸べた。

「痛い・・・。すいません。あ・・どうも・・」

ひざをさすりながら揺は恥ずかしそうに起き上がった。

そしてすがるような目つきでドームを見上げる。

「まさかチケットないの?」

そう聞かれ、渋い顔をして彼女は頷いた。

「こんな時間に来てチケットも持ってないなんてどんなファンなんだか」

男はタバコをふかしながら呆れたように笑う。

「ほら、もってけよ。」

そういうとヒラヒラとチケットを差し出した。

「え?」
かがみながら苦しそうに顔を上げた揺の目の前にチケットがぶら下がっている。

「たいした席じゃないし、もうあと数分でごみくずだ。
必死に走って飛んできた姉ちゃんの情熱に感激したからさ。
俺からのちょっと早いクリスマスプレゼントだ」

「いいんですか?」

「ああ・・ほら、早くしないと終わっちゃうよ」

「ありがとう」
揺はぺこりと頭を下げると足を引きずりながらチケットを受け取り、入り口に急いだ。




「いたたたたたたた・・・」

ヒルトン名古屋のスウィートルーム。6時半。

ベッドの上。

擦りむいたひざを抱える揺と彼女のひざを消毒する彼。

「もっとやさしくしてよ」

半べそをかいている彼女に

「全く・・・・いい年してこんなに擦りむいちゃって。」

彼はそういって苦笑いしている。

「だって・・急いでたんだもん。」

彼女はそう答えるとちょっと口を尖らせた。

「コントじゃないんだから・・・大人は急いでいたって転ばないように気をつけるもんだ。」

「でもね。転んだからチケットもらえたのよ。」

「何それ」

「ダフ屋のおじさんが私の情熱に感動して恵んでくれたの。」

「へぇ~」

「おかげで踊ってるあなた見られたし。」

揺はそういうとベッドの上でおなかを抱えゲラゲラと思い出し笑いをした。

「何だよ。笑うなよ。」

恥ずかしそうな彼。

「だって最高に楽しそうだったんだもの。
良かったね。私も最高に楽しくてすっごく嬉しかった。」

「揺・・」

彼はそうつぶやいて揺をぎゅっと抱きしめた。

そして何度も頷く。

「うん。うん。うん。最高に楽しかった。
温かかった。やって良かった。
本当に心からそう思ったよ。」

「うん。お疲れ様」

揺はにっこり笑ってそういうと彼の頬にそっとキスをした。

「揺・・・」

彼は揺をベッドに押し倒す。

「もう・・・7時になるよ。打ち上げでしょ?ヒョンが呼びに来るよ。」

「行かなくていい。」

彼は彼女のうなじに唇を這わせながらそうつぶやく。

「そんなこと・・・思ってもいないくせに。」

揺はクスクスと笑った。

「あ~~~~どうして身体がひとつしかないんだよっ!」

ビョンホンはガバッとベッドから起き上がると頭をグシャグシャとかきむしった。

「私は逃げないから。ちょうど時差ぼけでぼっ~としてるし。
あなたがいない間寝て待ってるから、ゆっくり楽しんでおいでよ。」

揺はにっこりと微笑む。

「うん。最後だし・・悪いな。せっかく来てくれたのに・・」

彼はそういうとそっと揺の頭を抱きしめて髪にキスをした。

「勝手に来たんだから。気にしない。気にしない。」

ピンポーン

ドアベルの音。

「ほ~ら、お迎えだ。」

ベッドを飛び降りた揺がドアを開ける。

「揺ちゃん、悪いね。お邪魔しちゃって。」

「チャールズさん、気にしないで朝まで連れまわしていいですから。最後なんだから楽しんできて。」

「サンキュー。じゃ、適当に。で、その間の揺ちゃんの暇つぶしにこれ用意しておいたから」

彼の手には一枚のDVD

「?」

「秘蔵映像満載だから、結構楽しめると思うよ。」

チャールズはニヤニヤと笑っている。

「ふ~~ん。何かな。楽しみ。ありがとう・・・じゃ、あとで見てみますね。」

揺は嬉しそうにディスクの裏表を眺めている。


「お待たせ。じゃ、行こうか。」

支度を終えた彼はドア口に立つ揺の背後から現れた。

「じゃ、行って来る。お利口に留守番してろよ。」

彼はそういうと彼女にそっとキスをした。




すっかり時差ボケの揺は彼が出て行くとすぐベッドに横になった。

ふと目が覚める。

「今・・・何時?」

サイドテーブルの時計は夜中の一時をさしていた。

静かに眠れているところを見ると彼はまだ帰ってきていない。

「よく寝た~~~。」

大きく伸びをする。

まあ・・あと二時間は帰ってこないだろう。

「よし!」

勢いよく掛け声をかけ立ち上がった。


ゆっくりとシャワーを浴び、温かい紅茶を入れた揺はバスローブ姿でテレビの前に陣取る。

「イマドキは風呂はジャグジー、巨大液晶テレビにDVD標準装備だもんね・・・ってこの部屋がすごいのか。」

DVDディスクをプレーヤーに入れた彼女は自分だったら決して泊まることのないであろうデラックススウィートルームを眺めまわす。

「一人じゃ広すぎて寂しいわよね。」

そして借りてきた猫のように巨大なソファの上にひざを抱えて収まった。

「では。上映会を始めます。」

画面に映ったのは・・・・

大阪のコンビニ。

博多の屋台。

東京のガード下。

名古屋のベロタクシー・・・各会場での変装した姿。

遠縁のおじさん。

そして・・・

「何これ」

ずっとゲラゲラと笑っていた揺が息もできないほどソファの上でのた打ち回って喜んだのは・・・李教授の姿だった。

彼の言ったニューキャラ。

嬉しそうに冗談を言いながら李教授に変身していく姿がカメラに記録されていた。

そして肝心のコント。

間の抜けた一人芝居なのはおそらく間にステージの彼が受けている部分がはいるためなのだろう。

それがまた面白くて小ネタが隠れていて可笑しくて何度も繰り返して見る。

「苦しい・・・面白すぎて死ぬ・・・」



「そんなに面白い?」

「ひゃぁっ!いつの間に」

急に背後から声をかけられた揺は悲鳴を上げた。

「いつの間にって・・・さっきからずっと。

帰ってきてドア開けたらゲラゲラ凄い笑い声がするから入ってきたらお前が一心不乱にテレビ見てるから声掛け損なった。」

「いやだ・・・びっくりしたなぁ・・。ちょっとこれ最高に面白いよ。」

「知ってる」

「ははは・・そうよね。本人だもんね。

受けたでしょ~。いや、絶対面白いわ。」

「お前、やっぱり奴のこと好きだろ。」

「奴って?」

揺は画面を見て笑いながら答えた。

「李教授」

どこか不機嫌そうな彼。

「うん。大好き。嫌だ・・・焼いてるの?まさか」

揺は後ろに立っている実物の彼を見てゲラゲラと笑った。

「そんなわけないだろ。ただ・・・俺はあんなじゃない。」

そういう彼の口はちょっと尖っている。

「バカね。ああいうキャラ作って自分で遊んじゃうあなたが大好きなの。」

揺はそういうと彼に両手を差し出した。

彼は恥ずかしそうにでも、嬉しそうにちょっと笑って揺を抱っこする。

そして一言「ただいま。」と。

「お帰りなさい。」

にっこり微笑んでそう答えた揺。

ベッドで愛し合う二人をブルーの液晶画面がそっと照らしていた。




ベッドの中。

黒のセルフレームの眼鏡をかけた彼は裸のまま朗読をしていた。

彼の腕の中で揺は目を瞑ったまま彼の朗読劇に耳を傾けている。

「・・・・どう?」

読み終わった彼は彼女の顔を覗き込んだ。

揺は黙ったまま・・・・。

「おい、お前寝てるの?」

「まさか・・・感動をかみ締めてたのよ。」

揺は目を開けるとそういってそっと微笑む。

「さすが映画俳優。本領発揮ってところね。」

「今回の出し物の中では一番自信があったからね。」

「やっぱりあなたの声って最高。」

そういうと揺は彼にしがみついた。

「声だけ?」

「もちろん、全部」

揺はそういうと彼に覆いかぶさった。



「精神的にはお腹いっぱいだけどさぁ・・。
私、ひつまぶし食べてない。
味噌カツも食べてない。
ベロタクシーにも乗ってない」

彼の腕の中で揺は不満げに言った。

「そっかぁ・・じゃ、今日の出発までに全部やろう」

嬉しそうに言う彼。

「そんなのできる?」

揺はシーツから顔を覗かせて不安げに聞き返した。

「やろうと思えばなんだってできるさ。」

そういって彼はにっこりと微笑んだ。

「すごい自信ね。」

嬉しそうに言う揺に覆いかぶさった彼は悪戯っぽく微笑むと彼女の首筋にキスをしながらささやいた。

「じゃ、もう一回。やろうと思えば何回でもできる。」

「嫌だ」揺はそう答え彼の腕の中で嬉しそうに笑った。




「ひやぁ~。これ、最高に気持ちいいじゃない。」

翌日。

揺は名古屋の町並みを眺めながら、ベロタクシーの後部座席に乗ってご満悦の様子。

「運転手さん、もっと飛ばして~」

ゲラゲラ笑いながらそういう揺に

「お客さん重すぎます」

ビョンホンは自転車をこぎながら返事をした。

「もう・・・・・」

揺はふざけて怒った顔をすると手にもっていた観光案内パンフレットの筒で運転手のわき腹をつついた。

「お客さん、危ないからやめてください。」

身体をよじりながらそう答える彼を見て彼女はゲラゲラと笑う。


晩秋の風は冷たいがとても心地よい。

二人は名古屋城を眺めながら幸せに浸っていた。


「あ~ひつまぶしも美味しかった。
味噌カツも。もう何も食べられない・・」

セントレアに向かう車の中、揺はおなかをさすりながら満足そうにつぶやいた。

「お前が幸せそうで嬉しいよ。そういえばそっちの仕事うまくいったの?」

「うん。もちろん。完璧よ。」

自信満々に答える彼女。

「完璧なわりには空港にスーツケース忘れてくるってどうなのかな。」

ビョンホンはそういうとゲラゲラと笑う。

「失礼ね。忘れてきたんじゃなくて急いでたから預かってもらったのよ。」

「誰に?」

「・・・・・・・・遺失物拾得係の人に」

揺は小さい声で答える。

「そういうの忘れたっていうの。」

彼はそういうと揺のおでこにやさしくキスをした。

「荷物捨てるほど一生懸命駆けつけてくれる彼女を持って俺は嬉しいよ」

彼の大きい手が揺の手をそっと握る。

二人はそれぞれ左右違った車窓を見つめている。

違った景色を眺めながらそっと繋いだ手は離れることはなかった。




「一緒に帰る?スーツケースもあるし。」

空港のVIP控え室。

気を利かしてくれたのかスタッフはいない。

出されたコーヒーを飲みながら

彼はそういうとゲラゲラと笑った。

「もう・・・いじわる。」

揺はじろっと彼を睨んだ後、少し寂しそうにつぶやいた。

「行きたいけど・・・仕事もあるし。・・・また近いうちに行くよ。」

「ああ。俺も近いうちに東京に来る予定だから。」

「何しに?」

「トップシークレットです」

彼は自慢げに答えた。

「またぁ~」

悔しがる揺。

「秘密が多い方がドキドキするだろ?」

彼はそういうとテーブルの下で揺の足に足を絡めてきた。

「もう・・・」

呆れたようにでも嬉しそうに笑う揺。


すると突然ノックの音。

慌てて足を離し、靴を履く彼は何事もなかったように

「はい」と流暢な日本語で返事をした。

「全く・・・・飽きない人」

揺はそうつぶやきクスッと笑った。

彼はそんな彼女に向かってそっとウインクして悪戯っぽく微笑んだ。


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